「——以後、この子に仕えて生きるように」
開国から数十年、発展著しい大帝都。
医者の息子だった『隅方有馬』は、唯一の家族であった父が病で急逝してしまい、天涯孤独の身となってしまう。
だが父の出入り先だった帝都でも有数の名家『乙部家』に引き取られ、そこで一人娘『乙部すぴか』の従者として働くことになった。
そして生まれついて体の弱いすぴかは権謀術数渦巻く乙部の本家を離れ、
わずかな使用人と共に別邸に移り住み、穏やかな日々を過ごしていた。
地元から単身帝都に飛び出してきた同僚の女給『阿久戸麦』
すぴかと同じ女学院に通う不思議な雰囲気の女学生『弓張月子』
名家烏丸家の息女でありながら現役警察官の『烏丸志乃』
知人達と共に、すぴかは自分なりに楽しく過ごし有馬はそれに付き合い、支え続けていた。
だがしかし緩やかに流れるのは陽の当たる時間だけだった。
夜のとばりが降りればその限りではなく、命の削れる音が響きだす。
何故、医者の息子であった有馬がすぴかの従者となったのか。
それは——。
「だって仕方ないでしょう? 私は貴方しか食べられないのだから」